大概の本は読んだ端から忘れていくのだが、時々どうしても捨てられなくて手元に残しておく本がある。それはある一言、ある情景が心に残るものだ。この本も捨てられずに本の山の下の方に残っている1冊だ。上にドンドン積み重なっているので、引き出して読むのが難しい。だから手元に出さずに書いているので、ちょっと怪しい所もあるのだが、あ・・、ここにこの本が・・ここにあの言葉が書いてあると意識はしている。なんか人格というか、本格というか、妙に自己主張をしている。
紋蔵は居眠りという持病を持っているのだが、常回り同心になるのが希望で、めでたく移動ができた。収入も上がり、前途は洋々と思えたのだが、諸般の事情で物書き同心に逆戻りとなる。しかし、彼は納得すると文句も言わず黙々と白い息を吐きながら勤めにでる。その場面になぜか励まされるのだ。私って、本当に余程仕事が嫌なんだと思う。しかし、自分一人では無いと思うと慰められるのだ。
人から凄く誉められるとかの立場でもなく、黙々と文句も言わず、自分の勤めを懸命に果たす。何て偉いのだろう。評価を求めないのは難しい。だって、自分は一生懸命やっているんだもの、頑張っているねと行って欲しい。時々、ひどく孤独を感じるときがあるのだ。
でも、紋蔵だって、白い息を吐きながら勤めに出ている。私だって・・