舞台は中華、とある時代(勝手に五代十国時代くらいと想像している)。
かつて3年前にちょっと恋仲であった文林と小玉。
文林が皇帝となったことにより、その関係は自然消滅した。
そして、3年後のある日、文林は小玉に後宮に入ることを頼む。
その理由は、天才的な軍略の才能を持つ小玉に、兵を率いる資格を持たせるためだった。
これだと、立場は皇帝と、皇帝の命を受けた臣下の女将軍の物語りなのだが、それだけでは物語りは面白くない。
実は、やはりラブストーリーであり、ある夫婦の軌跡であり、込み入った人生の機微の物語りなのだ。
真面目にロクデナシな夫と妻
文林は、頭が良くて、男にもモテル美貌で、尚且つ冷淡、嫉妬深いロクデナシである。
そのロクデナシぶりは、後宮の美姫にそれぞれ男子3人を設けると、後の母親達には見向きもしない。
勿論、子供に対しても関心を持たない。
相手になったそれぞれの妃達は、とんでもない迷惑だ。
敵対する相手には、どの様にでも冷酷になれる。
それは我が子に対しても例外ではない。
そんな、ロクデナシの皇帝文林が、ただ一人執着する女性小玉。
彼女を傍に置いておくため、軍の指揮を執る資格を与えるためという理由をつけて後宮に入れる。
小玉は、昔部下で、ちょっと良い仲になり、気も合った文林から、お前の軍略の腕を生かす為、その資格を与えるため後宮に入ってくれと頼まれる。
それを承諾してしまったのは、とても親しい相手のたっての頼みを断れなかったということか。
勿論、軍人としての職業意識も多分にあったと思う。
軍人として、軍を思い通りに動かしたいという気持ち。
実は小玉もロクデナシなのである。
薄々と文林の想いに気づいているのに、知らない振りをしている。
しかし、良く分かるんだ。小玉のこの気持ち
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自分は多分、ほんの少しでも他の女性のものだという感じのある男は好きになれないのだ。嫉妬とか悲しみを抱くのではなく、醒めてしまう。
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しかし、同じ床に入り、夫に抱きつき熱を感じながらうつらうつらする。
そして、殺伐とした宮廷に文林を一人残さないため、自分もこの後宮にいようと思うくらい、彼への情が深い。そして、一生をかけて、こんな風に思える男は文林一人しかないと思っている。
これって、愛じゃないのかい??
面倒くさいなぁ・・。
面倒くさいのが良いのだけれど。
魅力あふれる周りの人々
1.王子鴻
文林の三男。生後すぐに母親を亡くし、小玉に育てられる。
ぷくぷくした元気な赤ちゃん。
小玉に懐く姿が可愛い。
2.梅花
小玉付の女官。
小玉が面倒くさい・・と言うと
面倒くさくない世の中など、最終的にはつまらないものです。
と、答える。
3.清喜
小玉付の宦官。
小玉が後宮入りするのについて、自ら宦官となる。
最後に・・
やはり、この本の魅力は何と言っても文体かもしれない。
中身は戦闘や殺伐が有るにもかかわらず、わりと可笑しみや明るさがある。
それは、小玉の恋愛や美しさや女らしさやに対する、ちょっとした鈍感さが醸し出すおかしみかもしれないし、思いがけない文林の純情さかもしれない。
決してすべてがハッピーエンドでは無いのだけれど、ちょっと・・、だいぶ・・笑えて、なかなか世の中思う様にはいかないものだという思いと、ジリジリする苛立たしさが混在する物語である。